使用条件などはここを参照されたし。2013/06/08投稿
心の掃除屋さん
~心に積もった塵をお掃除します~
あんなに拘っていたことが、ある時からスッキリ気にならなくなった。
そんな経験はありませんか?
誰かが、お掃除してくれたのかもしれませんね。
主人公:箒星(ほうきぼし)
種族:妖精

身長:プチトマト3個分
体重:ないと思う
特徴:
基本的に見えない
トマトが好き
竹ぼうきを愛用
機械が苦手
動物に懐かれやすい
短編小説
(サトシ)僕にはおじいちゃんの記憶がほとんどない。お爺ちゃんが嫌いだったというわけではない。むしろ大好きだった・・・と思う。
家族に聞いても、凄くおじいちゃん子だったと皆が言う。お爺ちゃんは僕が子供の頃に亡くなったから、あまり覚えていないのだろう。
大学に通うため、実家を出て一人暮らしをすることになった。その前に、親からお墓参りに行くように言われた。しばらく行っていないから念入りに掃除もしてくるように、と付け加えて。
お墓の周りに生えた雑草を取り除き、お墓を丁寧に拭いて掃除をした。線香を炊こうと袋から取り出した時だった。
「もう、いいよね?」
・・・?
耳元で声がした?
慌てて周りを見回すが、誰もいない。特に変わった所もない。
気のせいと自分に言い聞かせ、線香を設置し、ライターを取り出し、火を着けた。
「大人になったみたいだし、もう戻すね」
今度は、はっきりと聞こえた。得たいの知れない声だとは思ったが、不思議と恐怖は感じなかった。
ふと涙が流れ落ちた。
あれ?なんで泣いているんだろう。
と思った瞬間、記憶が映像となって頭の中をグルグルと回り始めた。
お爺ちゃんと縁側で西瓜を食べながら、花火をみた思い出。
誕生日にお爺ちゃんに絵をかいてあげた時に、すごく喜んでくれた思い出。
お母さんに、ダメと言われていたのに、多めに小遣いをくれた思い出。
悪戯をして、家族皆怒っているのに、お爺ちゃんだけが笑って許してくれた思い出。
色々な神話やおとぎ話を聞かせてくれた思い出。
風邪で熱を出して眠れなかった時、眠るまでずっと、傍にいてくれた思い出。
たくさんの思い出が溢れ出た。
亡くなる直前の思い出も。
僕は友達とケンカして、怪我をさせてしまった。
僕が、彼の消しゴムを勝手に捨てたという嘘を誰かが吹聴したため、彼が詰め寄ってきたのだ。
僕は否定したが、なぜか納得せず、殴ってきたため、思わず突き飛ばしたというのが真相だ。
僕は黙っていたが、当然、すぐに家族にバレてしまった。家族が全員、居間に集められた。
父にも母にも怒られた。
だが、僕は決して自分の非は認めなかった。僕はお爺ちゃんに助けてもらおうとお爺ちゃんの方を見た。
ところが、お爺ちゃんは助けてくれるどころか、猛烈に怒った。
「友達を傷つけるとは何事だ!」
それも、父と母も凍り付くぐらいの剣幕で。
だけど、僕は引かなかった。怪我をさせたのは悪いとは思ったが、ケンカの原因は相手のせいなのだ。
今考えると、きちんと経緯を説明すれば良かったのではないかと思うが、頭ごなしに怒られたので混乱してしまったのだろう。
「お爺ちゃんなんて、大嫌いだ!」
心にもないことを言って、僕は家を飛び出した。
結局、夜中に隣町の公園にいる所を、お巡りさんに発見されて、家に連れ戻された。
家に帰ってから親に「ケンカはなるべくするな」と言われただけで、他には何も言われなかった。
どうやら、相手の家族から詳しい経緯を聞いたらしい。
僕はだんだんと、お爺ちゃんと距離を置くようになっていった。
それから程なくお爺ちゃんは心不全で亡くなった。
僕は喪失感と後悔で気を落とし、学校も行けなくなり、食事もほとんど食べられなくなった。
一時期、危険な状態にまでなった。
しかし不思議なことに、ある日、突然に状態が回復して、食事も段々と普通にできるようになり、学校にも普通に行けるようになった。
その後、お爺ちゃんの話をしても、お爺ちゃんって誰?という顔をしていたようだ。
まるでお爺ちゃんの記憶が全くないかのように。
なぜ忘れていたのだろう。なぜ突然、思い出したのだろう。
さっきの声・・・?
「もういいよね?大人になったみたいだし、もう戻すね」
そうか。記憶を戻すって意味だったのか。
何者かはわからないけど、お爺ちゃんの死には耐えられなかった、子供の僕の記憶を封印してくれた。
そして成長した僕なら、辛い記憶にも耐えられるだろうから、記憶を思い出と共に戻してくれたということなのだろう。
後で、お婆ちゃんから聞いた話だが、お爺ちゃんはあの日のことを、ずっと後悔していたようだ。経緯も聞かず怒鳴ったこと。僕が悪いわけではないこと。
それをずっと謝りたかったこと。
僕が距離を置いたから、言う機会を逃していたのだ。
今度、実家に帰ったらアルバムを整理してみようと思う。
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